カンボジア最恵国待遇ー関税撤廃がもたらす価格競争の悲劇

  近年TPPを巡る協議で、農作物や家畜製品の交渉が難航していますが、実際に関税の撤廃によって、競争力に強い農作物が輸入された結果、輸入国の農作物の値段が下落して農家が苦境に喘ぐ事態になっている欧州の状況を紹介した記事をシェアしたいと思います。EUでは2000年初頭からカンボジアに対して最恵国待遇制度、武器の輸出以外、関税を免除するというEBA(Everything But Arms)制度を導入し、貿易の自由化に貢献し注目を集めました。しかし近年イタリアでは米の価格が下落傾向にあり、競争力の強い東南アジアの米がヨーロッパでの市場シェアを拡大しています。


 ※Cambodia Diary から抜粋--------------------

 
 イタリアの稲作農家は今週4つの主要な穀物取引所との取引を拒否する構えだ。カンボジアや他の東南アジア諸国の米は世界的に見ても非常に安い価格で取引され世界中で流通し取引高も世界トップクラス、またカンボジアは、取引相手国の中では唯一欧州連合から最恵国待遇が付与されており輸出の際の関税が免除される。そのため、イタリアの米市場競争に影響を与え価格を脅かす可能性があるとし、イタリアの稲作農家は欧州連合はイタリア稲作農家の保護政策に後ろ向きだと批判した。

稲作農家や、農業労働組合はミラン、ノヴァーラ、ヴェルチェッリ、パヴィアの主要穀物取引所の前で、横断幕を掲げトラクターなどを使ってデモ行いEUに対しカンボジアに付与している特恵関税制度の撤廃をもとめた。

 開発途上国の市場に特恵関税制度を提供するEBA(Everything But Arms 武器以外全て関税免除)の元でカンボジアは年々米輸出額が増大し、ヨーロッパのバイヤーによって米市場が大きく成長した。

 2014年前半 カンボジアは177,928トンの精米を出荷し、去年に比べて1%増になった。カンボジア米輸入業者のトップ10社のうち8社はヨーロッパ資本の会社で、米輸出全体の67%を占めている

 カンボジア稲作産業は非常に盛況で、順調に数字を伸ばして成長しているが、イタリアの農家は苦境に喘いでいるという。

  イタリア精米協会理事のロバート・キャリエルは「この状況が続けば、長年イタリア北部で培われてきた稲作の伝統は潰えるでしょう。イタリアはカンボジア米を脅威と見なしています。イギリスもこの状況に不安の色を隠せません。問題は輸入される米の量ではなく、米の価格です。カンボジア米の価格は非常に競争力があります。イタリアの栽培者は生産の段階でカンボジア米よりはるかにコストがかかっており、耕地に適した作物も限定的で、天候も不安定です。
昨年10月には1トンあたり353ドルで販売されていた米が、現在では330ドルまで値下がりしています。」と語った.

カンボジア米がこうした価格競争の問題から非難を浴びたのは初めてではない。

 12月 EU公正取引委員会委員長、カレル・ドゥ・グフトは, ヨーロッパに入ってくるいくつかのカンボジア米は不正に産地偽装を行いベトナム米が混入されていると主張し、こうした違反した作物をEBAの取り決めから除くように通達を出した。
 
 ヴァンヴィシェット 米商人協会副理事は、米輸出のこうした不正に対して、否定的な見解を示している。
 
 イタリアの農家からの圧力に対して 欧州委員会で農業開発部、ロジャー・ウェイト報道官は「カンボジアの最恵国待遇制度の廃止については議論の余地はない、EUは国際公約にのっとて制度を付与している。」との見解を示している。
 
 ダーシャン・チョーロスEU農務理事会委員長は3月、EUにおいて米の食料自給率は非常に低い。米消費率は全体の40%が輸入でまかなわれいる。とくにEBAによって輸入されるものはインディカ米の他、砕け米のような低品質なものも受け入れなければならない。と取材に対し答えた。


  ヒーン・ヴァンハン カンボジア王国農務省農業総務局副局長は、どのような制度の元での取引であれ、最も国が重要視すべき作物の取引が減退するような制度の撤廃は恐ろしい事態を招きかねないとしている。

 「私はこの問題に対して明確な回答は持っていない」と農家の抗議に対して答えた。「しかし、EBAの制度に関して変更を加える可能性があるのであれば、我々もEUとの取引について問題にするべきだろう」としている。