過酷な縫製工場の実態


  10時間に及ぶ西洋ブランドの縫製作業を終えた後、縫製工場の従業員であるリースレイ・ボファさんは小さなシェアルームに向かう。昨晩の残り物を食べ、床に倒れ込むように寝る。
およそ65万人の縫製工場の従業員は驚くべきことに大半が女性だ。ボファさんの一日は作業場とシェアルームの往復で、心身ともに疲れきっている。彼女の食事もとても質素だ。
彼女が田舎にいる両親に預けている5歳の娘に会いにいくことは滅多にない。
彼女はAFPの取材に対し「縫製工場での生活は楽でない事は承知しています。それでもお金が必要なんです。だから耐えるしかありません」と語った。
かつてカンボジアの縫製工場は労働環境の良さや搾取が少ない労働形態として脚光を浴びていたが、縫製産業の急成長に伴い企業間での競争が激化し、工場数が増加、労働環境が日に日に悪くなっていった。近年、人件費の安さや受注、生産コストを抑えるためカンボジアの縫製工場にオーダーが殺到しており、「新たに新設された工場は利益を優先して労働法の法的要件を満たしてないし、気にかける様子もない。彼らは法的コンプライアンスに注意を払う気などさらさらない。彼らは金を作る事しか頭にない。」とILO国際労働機関のカンボジア工場労働者是正プログラムのテクニカルスペシャリストジェイソン・ジャッドは述べた。一月に起こった激しいストライキにより、4人のプロテスターが警察によって射殺されたが、この背景には、過酷な労働を課すこの工場の実態があり、勤務時間中につぎつぎと労働者が床に倒れ気絶するという悪質極まりない労働環境があった。かつて称賛を受けていた部門も今回の件で評判が地に落ちた。西洋ブランドのトップは政府から警告を受ける事態にまで発展している。労働者によれば、こうした実態が各報道機関によって明るみに出ても、公表される名目賃金は上がるが、手取りはほとんど変わる事はないという。
ボファは「私たちは縫製工場で本当に惨めな思いをして働いている」と語っている。彼女は最近服に使われている化学物質を吸引してしまい作業中に倒れた。「たとえ私たちが病にかかって働けなくなっても彼らは給料を減らすだけです。だから病気の時でさえ働かなければならない。」つらい心情を打ち明けた。
ボファさんは週に6日働いている。仕事が始まるのは朝7時。夜遅くまで働かされ残業は毎日当たり前のように課せられる。
「時々、夜を徹して作業を強いられる時があります。寝る時間もありません。」と彼女は言い、彼女の給料は一ヶ月130ドルで毎月家族の元に50ドルの仕送りをしている。
「わたしは毎晩残り物のご飯をたべたり、時には残飯を食べる時もあります。これは全てお金を貯めるためなんです。」彼女の願いは、彼女の娘が自分よりもよい人生を歩んでくれるだけを願って必死に働いている。
 たくさんの女性労働者が家族を養うための仕事を得るため過酷な労働条件の下で働く事を余儀なくされている。
「幼児保育施設がないこの工場では、とても娘と一緒に生活する事はできない」と生後一ヶ月の赤子を持つトン・サム・オルさんは言う。
オルさんは「母親に生後間もない子供を預かってもらうか、仕事を辞めて子育てに専念するか相談しています。」と娘に母乳を与えながら言った。幸いながらオルさんは工場から産休休暇と少量の手当があたえられたが、労働組合長によれば、ほとんどの工場はこうした利点を労働者側に支払う事をさけるため、短期契約で女性労働者を雇用している。

 いくつかの工場は妊娠している女性労働者の労働契約を一方的に破棄しようとしている。と地方の人権団体であるコミュニティー法律教育センターのモーン・トーラは言う。
「結果的に、妊婦は、収入源が断たれるとわかっていてもやめなければならない状況です。工場ラインの労働者を維持するため、短期契約は工場側に取っては有効な手段にはなっている。しかし労働者は労働条件に抗議したり、残業を拒否することはしない。彼らは倒れるまで働くだけだ。かれらの待遇はもはや現代の奴隷と課している」と彼は話している。
 貧しいカンボジアにとって、縫製産業はキャッシュを得るための重要な資金源になっており、この産業がもたらした、2013年の輸出収益はおよそ5.5億ドルで国民総生産のおよそ4%にあたる。
 「彼ら(労働者)の労働対価を考えれば、月の給与が平均100ドルでは少なすぎる。もっと支払うべきだ。賃金はこれまで数回上がった時期があったが、一番最近は2月だった。しかし、労働者が生活することに困らない程度の賃金を支払う事に対する思慮に欠けている。」と労働組合員は言う。
 工場のオーナー側はこれ以上賃金を増やす余裕はない。こうした一連の労働環境の悪化は西洋ブランドメーカーに問題があり、彼らは責任をとるべきだとしている。

「我々はお金を持っていない。我々は賃金を値上げする事はできない。」とカンボジア被服協会(GMAC)事務局長ケン・ロー は話した。

西洋ブランド側は5月に行われた会合でこうした労働者の不満に起因する生産ラインの遅延を回避するためにカンボジア縫製工場での給与の値上げを決定をした。1月起こった大規模なストライキと警察当局による弾圧で犠牲者をだした事などにより、最低賃金は月額100ドルに増加したが、労働者は160ドルを要求していた。現在政府が策定中の新しい労働組合法では、今回のデモ活動を通じて抗議を組織的に行うことを制限する条文を盛り込むと見られている。